読書中2010-08-14

一日のほとんどを仕事に費やしていると時間の流れがよくわからなくなる。考えてみれば二週間くらい前から腑抜けになりかけている気がするが、状況は少し落ちついただけで、まだまだやるべきことは大量にある。調整計画打ち合わせ、リソースの調達にスケジュールの変更、できあがってきたドキュメントのレビュー、でも何よりもまず、ちょっと頭を冷やして考える力を取り戻すことだ。この数ヶ月プロジェクトの立ち上げに関わっているが、とにかく今週を乗り切ることを考えるという状態になってしまっていた時期があるし、そういうときに下した判断のいくつかはまずい判断だった。

ところで、こういう状態になると、仕事以外の部分で時間が流れるのが極端に遅くなる。メールの返事を忘れていたことに気がつくのに一週間、書かなきゃと思って二週間、という具合に。一ヶ月近く前のエントリで書いたウォール街ネタはまだまだマイブーム(って言葉は定着したってことでいいのかね)はまだまだ続いており、というか普段の水準から考えると始まってもおらず、アンドリュー・ロス・ソーキンの"Too Big To Fail"をそろそろ半分まで読んだところだ。

『リーマン・ショック・コンフィデンシャル』の題ですでに邦訳もあるこの本は、2008年のリーマンショックについて200人以上に行ったというインタビューの集大成で、財務長官ポールソンやリーマンCEOのリチャード・ファルド、NY連銀総裁ガイトナーほか、きら星のごとき金融業界の大物たちが取った行動について、半ば小説仕立てで描き出している。リーマンショックに至った金融システム自体についての説明や考察はほとんどないので、CDSだの流動性だのモーゲージ債券だのを知りたいなら別の本を読んだ方がいい。未曾有の危機を前にしていかに人々が戦ったかを描いているという点で、ほとんど歴史小説のようだ。私は普段、歴史小説をほとんど読まないんだけど、この本は例外的に面白く読み進めることができていて、歴史小説が苦手だと思っていたのは、棚上げにされている事実性とフィクション性の境目の問題だと思っていたのは実は違ったんじゃないかと感じてもいる。

しかし…仕事以外のアウトサイドを取り戻したいときに読んでいるのが、危機に際して昼も夜もなく奔走する人々の話だとは。

序盤、様々な人物が危機に気がつく辺りはサスペンスフルに楽しめたが、Chapter 12まで読み進めて2008年の9月の初め、ファニーメイとフレディマックが財務省の管轄下に入ったところで、状況のあまりの厳しさが少々つらくなってきた。この月リーマンが辿る運命はすでに知っているわけで、ディック・ファルドが韓国産業銀行との交渉を破綻させるところなんて読んでいて何とも言いようがない。たぶんもうちょっと読み進めると、誰ひとり事態の全体像を把握できないし誰にも止められないカタストロフが、いっそ爽快に感じられるんじゃないかって気もするが。