Do It All Over Again2010-07-11

気がつけばはやぶさも帰還していたし、夏至はとっくに過ぎ去って、七夕も終わった。W杯は知らないうちに始まって知らないうちに終わろうとしている(あやめさんに見せようと思ったLouis Vuittonの広告はThe Economistから破り取ったままクリアファイルで書類に埋もれている。酒場でサッカーゲームに興じるジダンとペレとマラドーナ)。プロジェクトを掛け持ちしながら新しいプロジェクトの立ち上げに参加する六月がかなり忙しい月になることは予想されていたのだけれど、家主が倒れて入院というアクシデンタルな出来事が重なって、やらなければいけないことに両手を引っ張られ無理やり走っていたような気分だ。ようやくコントロールを取り戻しつつある――――とは言えまだ終わっていないけれど。八月までかかりそうだ。

本当はこういうときはもっと書いた方がいい。他愛ない日常的な雑感なり夜の病院での観察なり、日記でもアレなテキストでも、何だっていいから書いた方が気分的に安定して物事に取り組むことができる。書くというのは少し対象から距離を置いて整理するという側面がある。足がもつれそうに急いでいるときほどわかりやすく効果がある。一度習慣化してしまえば簡単なのだが、失ってしまうと再構築するまで時間がかかる。わかっていて一ヶ月以上が過ぎてしまったから、これから一ヶ月か二ヶ月かけて再構築するつもりだ。

何か書こうかなと思ってnovelist.jpに登録し、古いテキストをアップロードしたりしている(日本でもこういう形式がもっと一般的になるといいのにと思う)。たまに書くと楽しいし、考えていることをネタの形にすると少し片付いたような気分になるから、書いて気が済むなら書く方がいい。それで読んだ誰かをエンターテインできるなら文句ない。…こんなふうに少し前向きになったら『ワインバーグの文章読本』の出番だ。この本の著者ジェラルド・M・ワインバーグはIT関連コンサルタントの元祖みたいな人で、『コンサルタントの秘密』を初めとする何冊もの著作を物しており、ユーモラスで読みやすい文章とともに時折ひどく大事なことを言う。そのワインバーグの文章読本は、これが、IT系の人間しか読まないのがもったいないような本なのだ。

これとつながってはいるが、ちょっと違う話に飛ぶ。

NHKで放映している『ハーバード白熱教室』のマイケル・サンデルの著書『これからの「正義」の話をしよう』が売れているようだ。私もKindleで読んでいる。これが滅法おもしろくて、時事問題をもとに政治哲学を語っていく手法が実に見事だ。

個別のトピックはさておき、読んでいると、日常いかに思考停止しているかを思い出す。就職してしばらく経った頃、考えることを意図的に中止した事柄がいくつかある。答えの出ない問題、大雑把に言えば真善美だ。答えは出ないだろうと考えていた。絶対的に正しいものとしての神でも仮定すれば別だが、そんなものはない。それでも神なしに正しい答えを導き出すことを無限に遠い目標として置き、考え続けるべきだろうと、その前提を置いたところで考えることをやめた。やめたのは、いちいちそんなことを考えていては日常生活に支障をきたすからだ(日常生活でいちいち根本まで遡らなくてすむというのは、暫定的な正しさとしての法の大きな役割だ)。考え続けるべきだと態度だけを決めてそこでストップというのは捻くれているようだが、考えなければならなくなったらいつでも再開できると思っていた。けど、これもありがちな話だが、結構停止しちゃっていたみたいで、肩凝りみたいに固まっちゃっていたところがいろいろ出てきた。そろそろリストラクチャリングの季節だという予感がある。

A Muckraker2010-07-18

そんでまた一週間が過ぎた。三連休はすべて仕事だが、少なくともちゃんと眠る。

アメリカでは定期的にウォール街内幕暴露もののヒット作が出るが、その系譜をまとめて整理したいなあとちょっと考えている。今の仕事が金融関連なのもあって、まあ勉強にはなりゃしないけど、そういう本の方が読んでて楽しいし。景気のいいときには「トップトレーダーに学ぶ」本が多く、リーマンショックみたいな出来事の後では「あの時あそこで何が起こっていたのか?」本になる。最近だとリーマン・ブラザーズに勤めていた青年が手記を出していた。出版年月日を金融業界の年表とつき合わせてみれば結構はっきりと傾向が出るだろう。

考えてみれば私はギャンブル本が好きなので、『ギャンブルトレーダー』が言うようにトレーディングとギャンブルが似ているならば、ウォール街内幕本が好きなのも当然だ(この本は今ちょこっとずつ読んでるが、本当は一気読みしてついでにホールデムやりたい)。ちなみにギャンブル本だと"Hustlers, Beats and Others"とか好きで好きでもう…待てよ、サッカー好きじゃないけどサッカービジネス本とかも好きだな。要は虚実いりまじる世界の内幕本が好きだということか、今気付いた。

秘密には力がある。というのは、吉野朔実の『恋愛的瞬間』(今では読まなくなっちゃった吉野朔実のオールタイムベストを選ぶなら3位には確実に入る)のキャッチフレーズだが、知らない内幕っていうとそれだけで虚実いりまじって面白いところはある。きっと今私が働いている会社の内情だって、書く人が書けば面白くなるんだろうな。もしかしたら私が読んでも面白いかもしれない、末端は知らないことが多いし、社内の噂話に触れる環境にもないから。そういえば『金融大狂乱』というリーマン・ブラザーズ内幕本の著者は、例のサブプライムローンとはぜんぜん関係ない部署にいたそうで、危機の前から「ちょっとやばいんじゃないの」という流れがあったという話が出てくる。あれを読んで「そんな部署もあったのか」と思った元リーマン社員だっていてもおかしくない。

ずーっとひとつのプロジェクトにしかいないことの弊害はアウトサイドがなくなることだ。だからこういう本ばっかり読みたくなるのかもしれないが、それで、少しは補えていると思いたい。