BIRD IS FLYING2007-06-09

しばらく見ないうちに、NBAもずいぶん変わっていたらしい。いちばんびっくりしたのは、昨日のエントリーのレブロン・ジェームズ、彼はハイスクール卒業後すぐにNBA入りしたのだが、今シーズンからはドラフトに参加できる年齢の基準を設けているようだ。十九歳で、ハイスクール卒業から一年間は経過していないとドラフトには参加できないのだと言う。
さらに見てみると、2000年代に入ってからというもの、ドラフトでの一位指名は高校生がすごく多い。時代は変わっていたのだな…かつては大学でプレイしてからNBA入りする選手の方が圧倒的に多かったのが、優れた選手は高校から即NBA入りするケースの方が増えていたわけだ。
ドラフト参加の年齢を制限したということは、大学卒→高校卒というこの流れにストップをかけたかった、ということだろう。これは面白い。

ちょっと話がそれるけど、昔は結構考えていて、上のニュースを見るまですっかり忘れていたことを書く。

球技をいくつかにカテゴライズすると、バスケットボールはサッカーと同じカテゴリに分類される。敵陣があって、自陣があって、敵のゴールにボールを入れたら点が入る。
そうでない球技の代表的なものとして、アメリカ的なものというカテゴリがある。野球とアメリカン・フットボールだ。共通するのはルールの複雑さと、攻撃/守備がターンとして別れていることか(アメリカン・フットボールは「相手のゴールに点を入れたら勝ち」なところもあるけど)。
この区分の違いは結局、アメリカ的なものにカテゴライズされるスポーツの特徴だと考えていた。何かというと、フェアネスという概念のアメリカ的なありようだ。フェアネスのルール的な保証としての、野球の攻撃/守備の分離。フェアネスの遂行的なあり方としての、アメフトの審判の反則のコール。アメリカ的なあり方は、解釈に幅があったり判例法ぽかったり審判個人に依存したりすることを許さないものとして結実したのではないか、と。
で、それとは違うもうひとつの疑問。アメリカのプロスポーツを見てみると、すぐに思い浮かぶのは、野球のMLB、アメフトのNFL、バスケットボールのNBA、アイスホッケーのNHLといったところ。この四つを並べてみたときの、スポーツとしてのそれぞれの特徴は何だろう?
この疑問には暫定的な答えも出せなくて、そのまま放置していた。とりあえず上記の分類にしたがえば、前の二つが「アメリカ的」、後ろ二つは「サッカー型」ということになる。

…と思っていたのだが、違っていたような気がしてきた。
アメリカのスポーツが持つアメリカ的な資質としてのフェアネス、はやっぱり存在するように思う。けどそのフェアネスの内実が問題だ。それは「サッカー型」にカテゴライズしていたサッカー/バスケットボール/アイスホッケーを較べてみて明らかになる。
攻撃/守備がターンごとに別れていることより優先する条件として、審判が複数いて、メンバー交代に人数制限がないこと(この点は野球についてはよくわからないが)、私はこの二つを見落としていた。審判が複数いるのはサッカーでもそうだけど、主審がひとりだけ「時間を計る」という絶対的な特権を握っているのに較べて、アメフトの審判はことあるごとに寄り集まっては合議の結果をコールする。裁判官と陪審員の差。

ここで話は、ようやくNBAのドラフト参加が十九歳に引き上げられたことに戻る。
今回のレギュレーション改定って要するに、大学で一年間プレーすることをNBAの義務教育とするってことではないか。
もうひとつの疑問の方、MLB、NFL、NBA、NHLと四つ並べてみたときのバスケットボールというスポーツの特徴は、持って生まれた身体的能力でカバーできる範囲の広さではないかと思う。バスケットボールを題材にとった面白い映画の数少ない記憶を辿るとその題名は”White Men Can't Jump”なのだ。走れて飛べて速いこと。高校のレベルが高いと言ってもたかが知れているだろうし、そこでは、身体能力が持つアドバンテージはNBAに較べてはるかに大きいのかもしれない。高校卒の若者をすぐにプロ入りさせることはその特徴を際だたせ、それによる弊害が明らかになってきたのかもしれない。

ラリー・バードのことを思い出した。ボストン・セルティックスの33番、インディアナ州出身の白人で、走れないし飛べないし速くもない、しかしベストだと言われたスモールフォワードだ。大学時代に始まるマジック・ジョンソンとの因縁の対決でも有名だ。マジック・ジョンソンがノールックパスなら、ラリー・バードはクールなスリーポイントと広い視野、常に相手より一瞬速い状況判断だった。
別にラリー・バードだって、好きこのんで「走れないし飛べない」なんて言われてたわけじゃないだろう。できることならそうしていたんじゃないだろうか。では、もし彼が走れて飛べて速い男として生まれついていたら、ラリー・バードになったんだろうか?
高校卒業後の一年間が義務教育みたいなものならつまり、NBAは将来有望な高校生達に「何かを学べ」と言っていることになる。卒業後すぐにプロ入り可能なレベルの能力を有する高校生達に学ぶべき何かがあるとしたら、それはやっぱり、ラリー・バードにあって高校生達にない何か、ではないかと思うのだ。

蛇足。書いていて懐かしくなって、ラリー・バードの昔の映像を集めたビデオを観ていたら、バードのファンが”BIRD IS FLYING”と書いたカードを掲げている場面があった。そうか、飛べないがしかし史上最高のスモールフォワードだった男は、Birdって名前だったんだな。

コメント

_ ともひ ― 2007-06-10 15:04:33

6年バスケ部だったともひですどうも。
題名と話の中身のリンクの格好よさに感激してコメントです。

私はルールが単純なスポーツ(どのスポーツもよく考えれば単純ではないのですが)、とにかくゴール決めりゃ得点入るものが好きだったんです。その方がなんとなく野性的でカッコイーと思ったりして。子供が外で、金かけないで遊んでいそうなスポーツ。攻撃がいっぱいできる方がやってて楽しい。
思えば野球とかアメフトの得点の入り方って驚愕ものでした(裏表って!)。
しかしながらガキの頃は三角ベースして遊んでいたし、観ていてオフェンスが一番おもしろいのってバレーボールだなと思った次第です。
初めて考えましたよこんなこと!

_ Ali ― 2007-06-14 00:00:18

こんばんはー。NBAファイナルは三戦終わって早くもスパーズが王手ですね。職場でnba.comのニュースをチェックしては「ぎゃー」とか言っております。
ともひさんはバスケ部だったんでしたよね。

バレーボール面白いんですかー。あんまり見たことがないんですが、今度テレビでやってたら見てみます。
ルールがいちばん面倒臭いのはやっぱりアメフトですかね。アメフトと野球はピッチャーとQBにかかる負担がやたら大きそうなところも似ていると思います。

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