音楽と映画ファンの立ち読み雑感2008-03-10

年始から始めてみた家計簿のおかげか、本屋での衝動買いが減りつつあります…って違うよ、先月メディアにお金をかけすぎた反動がさすがに来ているだけです。しかし昨日の三省堂本店と今日の丸善本店で、目についたけれど買わずにウィッシュリストに追加したのは我ながらびっくりの冷静さです。普段なら間違いなく買ってますよ『U.S. Black Disk Guide』とか『アーバン・ブルース』とか。このあいだだって『ブルース・ピープル』は見つけて即買いしてしまったのだし。

アル・パチーノが人生を語るロング・インタビュー『アル・パチーノ』も立ち読み。買ったら付箋だらけになるだろうなあ。ぱらぱらと立ち読みなのでうろ覚えだけど、いちばん印象に残っているのは「『狼たちの午後』以降のあなたの出演作について…」とか何とか、インタビュアーのローレンス・グローベルが言いかけたのを遮り「わかってる、『狼たちの午後』以降はろくな映画に出ていない」と言っていたこと。「ろくな演技を見せられていない」だったか。『狼たちの午後』は確かに傑作だが、1975年の作品だ。ええええ待て待て、てことは、『フェイク』や『インサイダー』がアウトなのはまだいいとして、『スカーフェイス』も『カリートの道』もアル・パチーノとしては満足の行く出来ではない、ということ? どれだけ水準が高いんだ。
ちなみに最後はグローベルとの掛け合いで終わっていて、これがなかなかいい。「くそ、どうしてこんなところまで来ちまったんだ?」と言うパチーノにグローベルが言う。「あなたの習慣のせいかも。金曜日には肉は食べない」 パチーノが答える。「そうだ。金曜日には肉は食べない」
…金曜日に肉を食べないだけでアル・パチーノになれるものならば。

ちなみにアル・パチーノの『スカーフェイス』は、HIP HOPにもっとも影響を与えた映画だとネルソン・ジョージの名著『ヒップホップ・アメリカ』にある。この映画は、公開されたときには評論家筋からは相当にこき下ろされたが、しかし、ほどなくしてそれとはまったく別な形でこの映画は賞賛を受けることとなった。というのも、コカインを融通するキューバ人という設定の主人公トニー・モンタナは、現実のさまざまな薬物密売人によって守護聖人のように崇め奉られることになったからだ。まだテンションも高かった若き日のオリヴァー・ストーンが脚本を手掛け、名手アル・パチーノが過剰なまでに演じるトニー・モンタナは、そのアウトサイダー的な性格、とにかくでかけりゃいいという拳銃、そして山のように積まれたコカインとともに、憧れの的となった。
『スカーフェイス』に登場する「世界は俺のものだ」という決めぜりふは、その後、HIP HOPのあちこちで目にすることができるようになった、とネルソン・ジョージは続けている(しかし、引用するのに写してみたら、訳文イマイチだなあ…読みにくいわけだ)。アメリカ映画協会のAFI's 100 Years... 100 Movie Quotesによれば"Say hello to my little friends!"が61位だそうだけど。
…それでもアル・パチーノにとっては「わかってる」と遮ってしまうようなものなのか。